TALK / 2026.05.08
映画プロデューサー、IT起業家、小説家。何者ですかと聞きたくなる男
株式会社ドリームキット 代表 大和田 廣樹聞き手 渋谷 彩華

東証マザーズ第1号上場の経験、堀江貴文氏との協業、インターネット黎明期の96年創業——肩書きを並べるだけでお腹がいっぱいになる。社長室では誰も突っ込めなかったことを、忖度なしの主婦が全部聞く。
資金繰りと気分転換と、会社より難しいこと
ビジネスとお金のリアル
メンタルが一番やられた時、どうやって乗り切りましたか?
ベンチャーで一番大変なのって、やっぱり資金繰りなんですよ。上場前、ビジネスは順調なのに黒字倒産しそうだった時期もあって。その時が一番しんどかった。
でも考えても資金繰りは改善しないんですよね。やれることは全部やる、あとはいかに気分転換するか。家にいて悶々と考えるのが一番よくない。一緒にやってたメンバーの中にも、それで若いのに体調を壊した子がいましたから。
「資金繰りがしんどい」 → 「今月の食費、どこを削ろう」の会社版。ただし人の人生がいっぱい乗っかってる分、桁がちがう。
起業して後悔した夜はありますか?
後悔したことはないですね。ただ、コロナの時にやってた事業は本当に大変でした。全く予測できなかったことでしたから。
人生で一番お金を失った出来事はありますか?
上場後、中国・アメリカ・日本と様々な国の会社に投資してきました。チャレンジングな事業に大きな額を入れて、ある程度成功したけどその後倒産した会社もある。そういう意味では大きなお金を失ったこともあります。
でもベンチャーってそういうものだし、若い人たちの思いや技術に惚れ込んで投資する。それ自体はリスクマネーで、あの時のチャレンジは素敵だったなって今でも思う。インテルと戦った会社とか、ね。
失敗というより、投資ですから。
チャレンジしていかないと、新しいものは生まれない。

成功する人の共通点と、この人は成功しないという特徴は?
前向きに捉えていける人の方が成功確率は高い。ただそれと同時に、失敗したことをきちんと分析できるかどうかが大切なんですよ。後悔は必要ないけど、反省はちゃんとしないといけない。
あと、ある規模まで行けてもそこから伸びない会社もたくさん見てきた。大きくしていくにはチームワークが大事なんですが、強烈なカリスマ一人で引っ張って成功してる会社もある。一概には言えないんですよね。
成功に必要なのは、努力・才能・学歴・運——どれの割合が大きいですか?
学歴は関係ないですね。一つ選べとなると……努力かな、一番は。でも運も才能も絡んでいる。
自分が96年に会社を作ったのも、ある意味で運だと思っています。名刺にメールアドレスが入ってる会社なんてほとんどなかった時代。Yahoo!ジャパン、ライブドアの前身、楽天——みんなその頃に立ち上げてるんです。インターネットのインフラになるぞと思って始めたタイミングが、まさに運がよかった。何でもやれる、取り放題の時代でしたから。
GMOの熊谷さん、USENの宇野さん……今でも「あの頃の戦友」みたいな感覚があります。みんなそれぞれ努力して会社を大きくしてきた。そこは才能も絡んでる。でも学歴は本当に関係なくて、うちの最初の会社には中卒でトップエンジニア、東大院卒より年収が上だった社員もいましたよ。
96年は、インターネット系なら何でもやれる時代だった。
あの頃の仲間は、今でも戦友です。
会社の資金繰りと家計のやりくり、どっちがしんどいですか?
それは会社の資金繰りの方が厳しいですね。なぜかというと、人の人生をいっぱい抱えてしまうから。自分の家族のことも大変ですが、100人の従業員の生活がある。
特にボーナスシーズンの6月と12月は憂鬱でしたね。年俸制で12ヶ月払いか18ヶ月払いか選べる制度にしていたんですが、18ヶ月を選ぶ社員も多くて、その分の支払いが通常の月より増える。お客さん側のミスで入金が遅れることもあって……細かいトラブルがいろいろあるんですよ、会社って。
ちなみに役員の給与を半年間止めたことはあります。でも社員には一度も遅らせたことはないですけどね。
「役員給与を半年止めた」 → 「今月は自分のランチ代だけ削る」の社長版。スケールが違いすぎて言葉を失う。

上場が、家庭を変えた。それでも家族は家族だという話。
パートナー・家庭・離婚のリアル
起業・事業についてパートナーから反対されたことはありますか?
……うまくいかなかった、ということですね。離婚しているので。
1つ目の上場が36歳の時、2つ目が42歳の時。その2つ目の上場前に離婚しています。上場すると周りが変わるんですよ、すごく。それがパートナーにも影響していく。自分も上場したらどうなるか予測できないし、パートナーがどうなるかも予測できない。なってみないとわからないことなんです。
上場したら、周りが変わっていく。
その環境になってみないと、予測できないことがある。
ご自宅でのヒエラルキーはありましたか?
ヒエラルキーというよりお互いフラット、1位同士だったと思います。ただ、財布は僕が持ってたんですよ。普通は奥さんが管理して旦那がお小遣いをもらうイメージじゃないですか、逆で。
役員給与が半年なかった時も、奥さんには知らせなかった。専業主婦で子供もまだ小さかったから、言っても解決しないし、余計な心配をかけるだけですから。
社員のモチベーションを上げるのと、パートナーの機嫌を取るのはどっちが難しいですか?
パートナーはまあ、これをやれば喜ぶっていうのがなんとなくわかる。でも社員は一人じゃないですからね。焼肉に連れていくと喜ぶ人もいれば、難しい仕事を与えるとモチベーションが上がる人もいる。全然違うんですよ。
特に技術系は難しくて、エンジニア同士で使うOSも思想も違うから宗教論争みたいになることもある。一人一人の個性に合わせてどう発揮させるか、ずっと考えてきましたね。

チャレンジする背中を見せてくれた、西洋かぶれのお母さん
幼少期・お母さんのこと
幼少期はどんな子どもでしたか?今のビジネスにつながる部分は?
うちは両親がかなり年上で、2人とも戦争を体験しています。父は学徒出陣でシベリア抑留、東京大空襲も経験している。大正生まれ。
母親がちょっと変わっていて、僕はそこを引き継いでると思っています。「ハイカラさんが通る」のあの感じが、まさにうちの母なんですよ。中卒なのに英語がペラペラで、イギリスのロットウェルという会社の社長秘書をやっていた。家にタイプライターがあって、パシャパシャ打ってる音がよく聞こえてきた。
アメリカに行った時には向こうで免許を取って、大きなアメ車で父の送り迎えをしてたっていう。あと戦時中は「西洋かぶれ」と憲兵に怒られていたらしくて(笑)。
お母さんから受け継いだもの、尊敬しているところは?
何事にもチャレンジする姿勢ですね。中卒でそこまでやる人はなかなかいない。NHKラジオ講座で英語を勉強して、パーティーにどんどん突っ込んでいって喋って習得した。学校なんか行けないから、自分で飛び込んでいく。
大学生の時、突然「明日からヨーロッパ行くの」ってなって。そういう人でしたね、ずっと。
面白いのが、僕が結婚した時に妻が母の料理を習いに行ったんですけど、帰ってきて「お母さんに嫌われてるかも」って言うんですよ。何を教わったのかと聞いたら、ナポリタン、オムライス……洋食ばかり(笑)。うちの「お袋の味」はお味噌汁じゃなくてビストロ系なんです。
中卒でもNHKラジオ講座で英語を学び、パーティーに飛び込んで習得した。
動かないと何も始まらない、を体で示してくれた人。

困ってることは……「お米が高いんですよ」に笑った話
最近気になること・締めくくり
最近、個人的に困っていることはありますか?
あんまり困ってないですね……逆に聞いていいですか?
——お米が高いです。(主婦インタビュアーより)
そうそう、主婦的な悩みだよね(笑)
でも本当に物価は高くなってますよ。去年映画祭で韓国・台湾・フランス・ニューヨークを回ったんですが、どこに行っても「こんな高かったっけ」ってなる。台湾の行きつけの牛肉麺屋さん、昔は500円くらいだったのが今は円安で全然違う計算になっちゃってる。アメリカなんてラーメン一杯30ドル、5000円ですよ。
日本が安くなったというよりも、円が安くなったということなんですよね。海外によく行く身としては、飛行機代もそうだし、なかなか堪える。
「映画プロデューサーで、IT起業家で、小説家」——肩書きを列挙するだけで人生3周分ある大和田さんだけど、この対談で一番印象に残ったのは、もっと静かな言葉だった。
チャレンジを続けてきた人の根っこには、いつも誰かへの思いがある。
その人が「あんまり困ってない」と笑って言えるのは、困ってきた夜をちゃんと乗り越えてきたからだと思う。

