TALK / 2026.06.12
テレビ・ラジオのディレクター25年。「向いてないぞ、お前は」と20代の自分に言ってあげたい男の話。
株式会社move on.e 代表 岩谷 直生聞き手 渋谷 彩華

テレビ・ラジオの番組制作ディレクターとして25年のキャリアを持ち、今は企業の動画制作・イベント・スタジオレンタルを手がける株式会社move on.e代表。
しのいだ、としか言いようがない。クリエイターのメンタルの守り方
メンタルが一番やられた時、どうやって乗り切りましたか?
しのいだ、としか言いようがないですね。
日々の生活の中に小さないいことを探していたのかもしれないし、気づかないうちに乗り越えてきたのかもしれない。
クリエイティブな仕事をしていると、クライアントが望むものができなかったという経験は少なからずあります。そういう時は改善を尽くすしかない。それだけですね。
起業して後悔した夜はありますか?
法人化してからは「人を雇うということがこんなにも大変か」と感じることがありますね。個人事業の時とは全然違う。そこは正直、想像以上でした。

人生で一番お金を失った出来事は?
僕の業種は仕入れというものがほぼないので、一気に大きく失うというより、じわじわと減っていく感覚ですね。組織を作る過程でそういう部分が出てくることはありました。
成功する人の共通点と、うまくいかない人の特徴は?
精神的なものが大きいと思っています。人を陥れようとしてビジネスをやっている方はほとんどいないと思いますが、人のためになることをしっかり考えているかどうかが一つのポイントだと思います。
成功に必要なのは努力・才能・学歴・運、どれですか?
努力じゃないですかね。
学歴もないですし、運というものはあるんでしょうけど、努力で引き寄せることができると思っています。何をどう努力するかというところが大事で、何もしないで成功するというのは、よっぽど運がいいか生まれ持った才能がある方じゃないと難しい。

会社の資金繰りと家計のやりくり、どっちがしんどいですか?
会社です。家族以外の生活も考えなきゃいけないので。働いてもらっている人たちに給料を払う責任がある。家計は自分たちだけの話ですが、会社はそうじゃない。そこの重さが全然違います。
主婦でも真似できるお金の増やし方・守り方のヒントは?
主婦だからとか経営者だからというカテゴリーは正直ないと思っています。
やるかやらないか、動くか動かないかだけ。自分の個性や特性をどう見つけるかというところが鍵じゃないかなと。
それと、学歴があっても教養がない人はいる。これからの時代は特に、教養というものがすごく大事になってくると思います。

「守るものがなくなったので、人生勝負させてください」
起業についてパートナーから反対されたことはありますか?
ありがたいことに反対されたことはないですね。怒られたこともないです。いろんな話をすることはありますが、怒られるというのはない。
社員のモチベーションを上げるのと、パートナーの機嫌を取るのはどっちが難しいですか?
妻の機嫌を取る方が難しいです(即答)
スタッフは他人なので、ある意味割り切って話ができる。でも家族はそうはいかない。
気に入らないことがあっても受け入れなければならない場面があるし、それはお互い様でもある。そう考えると、やっぱり家庭の方が大変ですよね。

守るものがある人の方が、経営者として成功すると思いますか?
実は離婚を経験していて、その時に当時の会社の社長に「守るものがなくなったので、人生勝負させてください」と言って独立したんです。
ただ、守るものがあるかないかと事業の成功はイコールではないと思っています。
むしろ大事なのは、自分がやりたいことで成功するという覚悟。自分に負荷をかけずに事業を成功させようという意識の方は多いけど、それだと難しい。銀行融資も含めて、やり方を知って全力でやるかどうかだと思いますね。

「誰もケツは拭いてくれない」と言い続けたサバサバのお母さん
幼少期はどんな子どもでしたか?今のビジネスにつながっている部分は?
自分から何かをしたいと言った記憶があまりなくて、だいたい弟たちが先に言い始めることが多かった。音楽との出会いもそうで、弟が幼稚園の子に影響を受けてピアノを始める姿を見て「なんで自分はできないんだ」と思って始めたんです。
ピアノからクラシック、ポップス、いろんな音楽を聴き始めて、そこからマスメディアというものが見えてきた。今の仕事のルーツはそこにあると思います。きっかけなんて、ひょんなことからですよね。

お母様はどんな性格でしたか?
サバサバしています。今もそうですけど。
僕もそこに似たんだと思います。「自分のことは自分でやる」というのはずっと言われてきた。もっとはっきり言うと「誰もケツは拭いてくれない」という言葉で育ってきましたね。
事業をやっていたわけではないんですが、そうじゃないと社会で戦えないということを教えてくれた人でした。
お母様に一番きつく叱られたエピソードは?
字を綺麗に書けということは非常に言われましたね。宿題を見てもらう時が一番嫌で、右手が腫れるほど叩かれながら字を直されていた記憶があります。
今となっては、綺麗な字が書ける方が社会で得するというのはわかりますけど(笑)

「向いてないぞ、お前は」——それでも映像の世界に居続けた25年
20代の自分にアドバイスするとしたら?
もっと儲かる仕事を探せ、ですね。この業種に入ると決める前の自分だったら「向いてないぞ、お前は」と言ってあげたいです(笑)
最近、個人的に困っていることは?
今ちょうど台湾の方向けの映像コンテンツを制作しているんですが、中国語がわからない。
映像は作れるんですが、何を喋っているかが理解できないのでクライアントとの意思疎通に少し苦労している。それが直近の悩みですね。
ただ、僕はあまり悩まない性質で、忘れるようにするんですよ。悩んでいたら次に進めないので。この仕事が終わったらすぐ忘れると思いますが(笑)
同じことは繰り返さない、と決めています。
それにしても、留学生に日本語で授業をしていると、彼らが必死で学ぼうとする姿に毎回刺激を受けます。日本語・英語・母国語と3ヶ国語を操れる人たちが当たり前にいる中で、日本人の語学力の弱さというのは本当に実感しますね。

「向いてないぞ」と言いながら25年続けた。
「もっと儲かる仕事を探せ」と言いながら映像の世界に居続けた。それが岩谷さんという人だった。
サバサバしたお母さんに「誰もケツは拭いてくれない」と育てられ、守るものがなくなった日に「人生勝負させてください」と独立した。
言葉は荒削りだけど、その一つ一つに芯がある。
悩んだら忘れる、でも同じことは繰り返さない。
それが25年生き残ってきた、クリエイターの流儀だった。
