TALK / 2026.05.22
SBI損保元代表取締役社長「困っていることはない」と笑って言える理由
合同会社オフィスエム 代表 五十嵐 正明聞き手 渋谷 彩華

クラスの隅で本を読んでいた内向的な少年が、保険会社の社長になった。同窓会で「まさかお前が」と言われ続けた男が、今は自分のペースで、自分のやりたいことを選んでいる。
煮詰まったら、1時間ふらふら。鈍感力と散歩が、メンタルを守る
メンタルが一番やられた時、どうやって乗り切りましたか?
私はどちらかというと鈍感な人間で、よっぽどのことがないとぐさっとこない感じなんですよね。ただ、仕事で思い通りにいかない時や会社として失敗してしまった時は、とにかく気持ちを切り替えることにしています。
一晩寝るのはもちろんですが、散歩に行くんですよ。会社を出て外の空気を吸って、頭を空っぽにしてみる。煮詰まったなと感じたら、会社の近くを1時間くらいふらふらっとしてることありますね。
起業して後悔した夜はありますか?
オフィスエムはまだ1年半ほどなので、特にないんですが……実はSBIの前に一度、独立したことがあるんですよ。その時はまだ年齢も若く実績も十分じゃなかったので、銀行に行ってもお金が借りられなかった。
会社というバックボーンがなくなることの意味を、その時に初めて知りましたね。信用って、積み上げるのに時間がかかるんだと。

成功する人の共通点と、うまくいかない人の特徴は?
私の周りで成功している社長は、やっぱり仕事が好きな人が多いですね。仕事に全魂込めているというか。好きだから人より努力もするし、いろんなことがあっても乗り越えられる。
逆にうまくいかない方は、志が中途半端だったり、すぐ諦めてしまったりする。失敗を恐れてチャレンジしなかったり、1回失敗しただけで心が折れてしまったり。SBIにいた時も社員に言っていたんですが、失敗するのは当たり前なんですよ。
大谷選手ですら3割バッターで、10回打席に立ったら7回はヒットが出ない。あの大谷選手がそうなんだから、1回2回失敗したっていいじゃないかって。起業家に向いている人の条件は、やっぱり諦めないことだと思います。
成功に必要なのは努力・才能・学歴・運——どれの割合が大きいですか?
学歴は関係ないと思います。答えは、努力です。
才能がある人でも努力しなければ大谷選手にはなれない。運についても、お仕事の運というのは頑張って見つけに行くものだと思っているんですよ。いろんな方との出会いを作ったり、何度もご提案させていただいたり。運って、フラッとどこかから落ちてくるんじゃなくて、自分で拾いに行くものだと。
学歴は過去の一つの通過点。でも勉強する気さえあれば、今からでもできる。だからそれも努力の一部だと思うんですよね。
主婦でも真似できる、お金の増やし方・守り方のヒントはありますか?
お金を貯める・増やす・有効に使うことに、主婦だからビジネスマンだからという違いはないと思っています。あるお金を使っていくだけでは減っていくだけなので、増やし方も少し知っておくといい。NISAやiDeCo、投資信託など、今はいろんな金融商品がありますから。
保険も実は「守る」手段の一つなんですよ。万が一の時に大きな出費が発生すると、せっかく貯めていたお金が全部そこに消えてしまう。それを回避できるのが保険の役割です。
最近では旅行のキャンセル保険というものもあって。小さいお子さんがいると、旅行の前日に急に熱が出るなんてこともありますよね。そういう時のために備えておくことで、安心して当日を迎えられる。お金の守り方って、そういう細かいところにもあると思うんです。

家庭でできていることは、会社でもできるはず
社員のモチベーションを上げるのと、パートナーの機嫌を取るのはどっちが難しいですか?
実は共通していると思うんですよね。社員はお給料をもらっているから、上司に言われればやってくれる部分はある。でも相手の立場を考えるとか、仕事が終わった後に「ありがとう」「お疲れ様」と一声かけることは、会社でも家庭でも同じくらい大事なことで。
家でできているなら、会社でもできるはず。逆に言えば、会社でできていないことは家でもできていないんじゃないかなって。
……ただ、この番組はいろんな方に配信されますから、パートナーの方が大変ですと言ってしまうとのちのちややこしくなりますので(笑)、どちらも同じ程度に大切ということにさせてください。
守るものがある人の方が、経営者として成功すると思いますか?
どちらとも言い切れないですが……守るべき家族がいる、大切なパートナーがいる、だから頑張れるというのは確かにあると思います。一方で独身の方は、すべて自分の責任のもとで判断できる。それがモチベーションになることもある。
ただ「守るもの」って、家族だけじゃないとも思うんですよ。例えば保険を通して、旅行に行けなくて悔しがっているご家庭を救えるかもしれない。安心して車に乗れる人を増やせるかもしれない。そういう人たちの笑顔を想像できることも、立派なモチベーションになるんですよ。

クラスの隅で本を読んでいた子が、社長になるまで
幼少期はどんな子どもでしたか?今のビジネスにつながっている部分は?
ものすごく内向的でした。社交的じゃなくて、クラスの隅っこで本を読んでいるような子どもだったんですよ。
今でも同窓会に行くと言われるのが「お前が社長をやるなんて想像もできなかった」って(笑)。社長ってどんどん自ら出ていかないといけないし、話もしないといけない。それが一番びっくりだと言われます。
でも、知らない間にちょっとずつ自分のパーソナリティが変わってきたんだと思います。20代の頃に「自分は口下手だから向いていない」と決めてしまったら、そこから先に進めなくなる。
30歳になった時に全然違う自分になっているかもしれないから、自分の可能性を今のうちに狭めなくていいんですよ。
お母様はどんな方でしたか?一番の思い出は?
子どもの頃は、うるさいなと思うこともありましたよ(笑)。でも今から思うと、ずっと見守ってくれていたんだなと。
特に就職の時や転職の時、「あんたがやりたいようにすれば」と言ってくれていて。人生の節目節目で、自分の選択を後押ししてくれていた。
今だから言えるお母様の尊敬しているところは?
やりたいことをやらせてもらえたこと、ですね。親って子どもを思うがゆえに、「そんなのダメ」「こうしなさい」とおっしゃる方も多いじゃないですか。でも母はそうじゃなくて、見守ってくれる部分があった。
その姿勢から、自分も学んだことがある気がします。

「困っていることはない」——それが一番率直な答えです
個人的に、今困っていることはありますか?
困っていることは……ないですね。
SBIグループでいろんな仕事をさせていただいて、保険会社の社長というなかなかできない経験もした。それをリセットして、今は新しいことにいろいろチャレンジしています。今日みたいな対談もそうです。
独立したということは、自分の好きなことを自分のペースで、自分のリズムでやれている時期だということ。困っていることはないというのが、一番率直な答えだと思います。

「困っていることはない」——その言葉が嘘っぽく聞こえないのは、五十嵐さんがその状態にたどり着くまでの時間を、ちゃんと積み上げてきたからだと思う。
クラスの隅で本を読んでいた内向的な子が、保険会社の社長になって、また一歩踏み出した。運を待つのではなく、拾いに行く。失敗を恐れるのではなく、そこから学ぶ。
見守ってくれたお母さんのように、
五十嵐さんもきっと、周りの人をそっと見守っている人なんだと思った。

