TALK / 2026.04.22
着物を着て、数字と戦う。博多の伝統芸能を守る女性起業家のリアル。
はかた芸処 わ乃桂 代表 渡邉 桂子聞き手 渋谷 彩華

「日本舞踊はお金にならない」!そう言われた瞬間、渡辺桂子さんは逆に火がついた。専業主婦として17年間を過ごし、離婚後に履歴書に書けるのが「運転免許のみ」だった彼女が、今は福岡で伝統芸能の会社を経営している。エプロンを脱いだ先に何があったのか。
レールに乗れなかった子ども、自分の道を歩くしかなかった理由
生い立ち‧日本舞踊との出会い
どんな子どもだったんですか?
小・中・高・大、全部の受験に落ちてるんですよ(笑)。親が引いたレールには、まったく乗れなかった。怒られてばっかりで、褒められた記憶がほとんどない。でも今思うと、あのレールに乗れなかったから、自分の道を歩くしかなかったんですよね。
日本舞踊はいつから?
保育園のお遊戯会がきっかけで、自分の意思じゃなくて「やらされてスタート」なんです(笑)。でも気づいたら何十年も続けていて、それが離婚後に唯一「できること」になっていた。人生って、やらされたことが後から意味を持つことってあるんですよね。
人生って、やらされたことが 後から意味を持つことって あるんですよね。

「お金にならない」と言われた瞬間逆に火がついた
起業の決断‧経営のリアル
起業のきっかけを教えてください
離婚したとき、履歴書に書けるのが運転免許だけだったんです。「何ができるの?」って聞かれて「日本舞踊ができます」と答えたら「お金にならない」って言われて。じゃあお金にしてやろう、って(笑)。伝統芸能って、事業として成立させないと残っていけないんですよ。「継承したい」という気持ちと「食べていかないといけない」という現実が重なって、起業という答えにたどり着きました。
起業して後悔したことはありますか?
後悔した夜はないです。でも心配した夜は、めちゃくちゃあります(笑)。後悔と心配って、全然違うんですよね。資金繰りや先行きへの不安は常にある。でも「やめておけばよかった」とは一度も思ったことがない。
後悔した夜はない。 でも心配した夜は、 めちゃくちゃある。
人生最大の失敗って何ですか?
1店舗目が思うように軌道に乗らなくて、そのマイナスをカバーするために 2店舗目を出したんです。でも2店舗目もまだ軌道に乗るまで時間がかかっている。正直に言うと、今も現在進行形の課題です。きれいな失敗談じゃなくてすみません(笑)。
メンタルが一番きつかった時期は?
意外かもしれないけど、パートナーがいた時期の方がメンタル的につらかったんですよね。今は経営の不安はあっても、寝たら回復するんです。「寝る」って、最強なんですよ(笑)。

家族、言葉、そして運。渡辺桂子が信じるもの。
成功論‧夫婦‧人生観
成功する人としない人、何が違いますか?
マイナスなことを口にする人は、なかなか前に進めないと感じています。言葉ってすごくて、プラスのことを口にしているだけで、自分も周りも変わっていくんですよ。愚痴を言いたくなる気持ちはわかるんですけど、それを口にするかどうかで、未来が変わると思っています。
成功に必要なものは?
「運」と「努力」なんですけど、正直、運の方が大きいと思っています。私、自分のことを「めちゃくちゃ運がいい」と思っているんです。タイミングを読んで、運気を上げる意識を持つ。努力だけじゃなくて、運を味方にする姿勢が必要だと感じています。
夫婦関係で、一番大事なことって何ですか?
「言わなくてもわかるはず」って思う女性と、「言ってほしい」って思う男性の間に、すごく大きなズレがあると思うんです。私の離婚経験から言うと、感情的にならずに言葉で伝えること、そして相手からも言葉を引き出す努力をすること。価値観を近づけていく努力が、長続きする夫婦の鍵だと思っています。
家族がいながら経営することについて
守るものがある経営者の方が、続くと思っています。家族の存在ってモチベーションになるし、事業を次につなげていく理由にもなる。独身だと夜の街に使ってしまうこともあるけど(笑)、家族がいると「この事業を続けよう」という動機が持続しやすいんですよね。
会社より、パートナーの機嫌を取る方が 圧倒的に難しかった。

エプロンをつけたまま、ちょっと外の世界をのぞいてみて
専業主婦へのメッセージ
専業主婦の方が今すぐできることは?
まず、時間があるうちにお金の勉強をしてほしいです。テレビをやめて SNSやXから新鮮な情報を取りに行く。今はAIも副業ツールも整っていて、自宅にいながら学べる時代なんですよ。情報そのものがお金になる時代に、何もしないのがいちばんもったいない。一歩踏み出すだけで、世界が変わります。
過去の自分に声をかけるとしたら?
「そんなに自分を追い詰めなくて大丈夫。なんとかなるよ」って言いたいですね。若い頃は無知で、失礼なこともたくさんしてしまった。でも、その経験があったから今がある。 20代の自分に会えるなら、もう少し肩の力を抜いてって伝えたいです。
専業主婦の方へ、最後にメッセージ
専業主婦をやってきた後でも全然違う未来を切り開けたんです。子育てが終わってからでも、何だって始められます。大事なのは優先順位で、「自分→パートナー→子供」の順で大切にすること。自分が整っていないと、誰も大切にできないんですよ。
「自分→パートナー→子供の順で大切にする」
渡辺さんのこの言葉が、取材を終えてもずっと頭に残っています。
自分が整っていないと、誰も大切にできない。
伝統と現実の間で戦い続ける彼女の姿は、エプロンの向こう側に何かを探しているすべての女性への、静かなエールでした。
